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東京高等裁判所 昭和47年(行コ)79号 判決 1975年12月24日

川崎市中原区上丸子天神町三四六番地

控訴人

松岡正之

右訴訟代理人弁護士

関根栄郷

宇都宮正治

片桐晴行

東京都目黒区中目黒三丁目一、〇七三番地

被控訴人

目黒税務署長

大野良男

右訴訟代理人弁護士

今井文雄

同指定代理人

小山三雄

岩崎章次

藤田里見

右当事者間の昭和四七年(行コ)第七九号・第八〇号所得税更正決定取消請求控訴事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、昭和四七年(行コ)第七九号事件について「原判決を取り消す。被控訴人が昭和三七年一〇月三一日付で控訴人の昭和三三年分所得についてした賦課決定のうち、所得金額五一万円税額九万円をこえる部分を取り消す訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を、昭和四七年(行コ)第八〇号事件について「原判決を取り消す。被控訴人が昭和三七年一〇月三一日付で控訴人の昭和三四年分所得税についてした更正処分のうち、課税所得金額一一九万三、九〇〇円をこえる部分を取り消す。」との判決を、求め、被控訴代理人は、いずれも控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠関係は、次のとおり付加するほか、原判決(東京地方裁判所昭和三八年(行)第九六号の一-二)事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。

控訴代理人は、次のとおり述べた。

一、株式会社パリー化粧品本舗(以下パリー化粧品という)の認定賞与について

被控訴人はパリー化粧品の簿外予金であるとする三菱銀行恵比寿支店松岡正之、住友銀行渋谷支店浅田美代子各名義予金の各年度(昭和三三年度、昭和三四年度)払戻額の中、使途不明金について、控訴人個人の認定賞与として課税処分を行なうにあたり、右使途不明金の算出につき次のとおりの誤りがある。

1. 被控訴人は右使途不明金算出方式の中、パリー化学工業株式会社(以下パリー化学という)に支払われるべき仕入計上洩として、各年度の簿外入金額(表勘定振替分を除く)に一率に三〇パーセントを乗じた額を計上しているが、これは単に課税のための計算上の数字に過ぎず、実際の使途とは異なる。

パリー化粧品は荒川信用金庫浅草支店に松岡正之名義の口座を設け、この当座を用いてパリー化学の原料仕入代金について約束手形により毎月四日を中心に一回決済をなしており、右支払手形の決済資金は毎月右手形決済の直前に定期的に松岡正之、浅田美代子名義の前記三菱。住友各銀行予金から入金していたものである。このことは、荒川信用金庫浅草支店の当座勘定元帳(甲第五号証)、松岡正之の銀行調査元帳(乙第四号証)、浅田美代子名義の予金元帳(乙第八号証)との対比により明らかである。

(一)  荒川信用金庫当座予金口座からの昭和三二年一一月一日から同三三年一〇月三一日に至る間(パリー化粧品の事業年度)の支払手形の決済総額は金一、九〇二万九、七〇〇円でありこの金額は、同年度間の松岡、浅田名義の本件簿外予金の払戻額金三、〇三六万二、四四〇円から現実に入金されたというべく、払戻額から右荒川信用支払手形決済分と被控訴人算出の経費計上洩を差引くと、使途不明金はないことになり、むしろマイナス七四一万三、〇六〇円となるからこの分は簿外予金以外からの支出がなされたことになる。

(二)  同様昭和三四年度の払戻額金二、九七二万七、六二三円についてみれは、荒川信用金庫当座予金口座から昭和三三年一一月一日から同三四年一〇月三一日に至る間の支払手形の決済総額は一、四八七万二、三五四円であり、前記簿外予金の払戻額は全額右金額の支払に入金されたものであるから使途不明金は存在しない。

2. かりにパリー化粧品のパリー化学に支払うべき金額は売価の三〇パーセントとするとしたとしても、パリー化粧品への入金の中には直轄店からの入金と独算店からの入金とがあり、直轄店からの入金については右の計算が妥当したとしても、独算店からの入金については五〇パーセントしか本社への入金はないから、少くとも独算店については入金額を売価に還元してパリー化学に支払うべき金額を算出すべく、このような計算を行うことにより、パリー化学に対して支払われるべき仕入額は六六パーセントも増加が見込まれるべきである。このような計算は、セールス報奨金の算定についても同様にすべきである。

二、パリー化学の認定賞与について

1. 被控訴人はパリー化学の簿外売上金額として、パリー化粧品の各事業年度中の売上入金額とした金額を、パリー化学の事業年度に相応する期間のそれにひきなおした上、その額に一率三〇パーセントを乗じた額を算出し、この額を基礎に簿外経費を減じて使途不明金を算出しているが、すべて、現実の入金なくして計算上の数字を挙げたに過ぎず、かかる計算上の数字は課税根拠となし難いものである。

被控訴代理人は次のとおり述べた。

一、控訴人のパリー化粧品の認定賞与に関する主張はすべて争う。

控訴人の主張は次のとおり根拠を欠くものである。

1. 荒川信用金庫浅草支店の松岡正之名義の当座取引口座(甲第五号証)はパリー化粧品が、パリー化学に対し原料仕入代金支払のため振出した約束手形の決済に用いられ、右決済資金は毎月定期的に簿外予金である三菱銀行恵比寿支店松岡正之名義の予金(乙第四号証)及び住友銀行渋谷支店浅田美代子名義の予金(乙第八号証)からそれぞれ出金されていると主張するけれども、両者の出・入金の間には何らの対応関係はない。

2. パリー化粧品の独算店から本社への送金はセールス報奨金等の経費一切を差し引いた残金を送金していたのであるが、被控訴人は、直轄店、独算店を通じて簿外売上高の一五パーセントを経費として認めたので、むしろ経費として認めた額は多きに失することはあつても、控訴人主張のように少な過ぎることはない。

また、パリー化学への仕入代金の計上およびセールス報奨金の算定にあたつては、パリー化粧品の申立てがあり、その申立てに合理性があつたので、その申立をそのまま認めたので、控訴人主張のように、独算店の送金分を二倍にして計算する必要はない。

二、控訴人のパリー化学の認定賞与に関する主張は争う。

1. 控訴人は、パリー化学はパリー化粧品から現実に支払いを受けていない金額を基礎として使途不明金を算出するのは誤りと主張するけれども、控訴人がパリー化粧品とパリー化学の二社を設立し、それぞれ製造部門・販売部門を担当させてその法人格はそれぞれ別個である以上、課税上、両社それぞれの所得を別個に計算するのは当然のことである。したがつて、パリー化学の簿外売上金額をパリー化粧品の簿外売上金額から推計して算定し、これを基礎としてパリー化学固有の使途不明金を算出することこそ合理的である。仮りにパリー化粧品からパリー化学への現実の支払いがないとすれば、パリー化粧品の使途不明金がそれぞれ増加するだけで、本件認定賞与額に変動はない。

2. パリー化粧品の売上に三〇パーセントを乗じてパリー化粧品の仕入代即パリー化学の売上とすることが妥当であることは、パリー化粧品の表勘定の売上原価に対する売上額が約三〇パーセントとなつている(甲第一〇、一一号証の損益計算書参照。)ことからも明らかである。

証拠として、控訴代理人は当審証人渡辺清の証言、当審における控訴人本人尋問の結果を援用し、乙第二二号証の成立は認め、同第二三号証の成立は否認する、と述べ、被控訴代理人は乙第二二、二三号証を提出した。

理由

一、当裁判所は、当審における証拠調べの結果を加え、さらに審究するも、控訴人の本訴請求は理由がないと判断するものであつて、その理由は次のとおり付加もしくは訂正するほか、原判決理由の説示と同一であるからここにこれを引用する。

1. 昭和四七年(行コ)第七九号事件(以下一事件という)、昭和四七年(行コ)第八〇号事件(以下二事件)各原判決一一枚目裏末行「各証言」の次に「原審及び当審における証人渡辺清の供述の一部」を、それぞれ加える。

2. 一事件原判決一二枚目裏三行目の末尾、二事件原判決一二枚目裏五行目の末尾に、それぞれ、「控訴人は被控訴人主張の使途不明金算出方式の中、パリー化粧品の簿外売上高の三〇パーセントにあたる金額をパリー化学に対する計上洩仕入代金としたことは、単に課税のための計算上の数字に過ぎないと主張するけれどもパリー化粧品とパリー化学との間において仕入代金について現実の処理がなされていたことは前記認定のとおりであるから、この点に関する控訴人の主張は理由のないことは明らかである。」を加える。

3. 一事件原判決一三枚目表一行目「基礎として」の次に「両社に対し」を加える。

4. 一事件原判決一三枚目表七、八行目、二事件原判決一三枚目裏二、三行目の各「証人渡辺清、河瀬卓爾の各証言および原告本人尋問(但し第一回)の結果」とあるを、いずれも「原審及び当審証人渡辺清、原審証人鈴木正一の各供述の各一部、原審証人河瀬卓爾の証言、原審及び当審における控訴人本人(但し原審第一回)尋問の結果」と訂正する。

5. 一事件原判決一四枚目裏三行目「免かれず、」を「免れない。」と訂正し、その次、並びに二事件原判決一四枚目裏末行から二行目「ある。」の次に、いずれも「控訴人はさらに松岡正之、浅田美代子名義の前記三菱住友各銀行予金から荒川信用金庫浅草支店の松岡正之名義の口座に入金し、パリー化学の原料仕入代金のための決済にあてられたから、パリー化粧品の簿外予金の払戻額に使途不明金はないと主張するけれども、原審および当審における控訴人本人尋問の結果によるも荒川信用金庫浅草支店の松岡正之名義の当座予金の支払手形は必ずしもパリー化学の原料仕入代金の支払ばかりでなく、また、右当座への入金は控訴人主張の簿外予金からの入金だけでなく、支払手形も亦表勘定裏勘定の区別も明らかでないことが推認されるばかりでなく甲第五号証及び乙第四および八号証により予金の出入及び金額回数等を対比してみても、両者の予金に控訴人主張のような対応関係は認め難いので、この点に関する控訴人の主張も採用できない。なお、パリー化粧品からパリー化学に支払うべき仕入金額として入金額の三〇パーセントとすることは、直轄店については妥当するも、独算店からの入金については入金額を売価に還元、すなわち二倍として計算すべく、このような計算を行なうことにより、パリー化粧品の簿外予金の払戻額に使途不明金はないと主張するけれども、直轄店からの入金、したがつてまた独算店からの入金額を確定し得ないことは前記認定のとおりであるから、控訴人主張の比率を適用して仕入金額を計上するに由なきものといわざるを得ない。」を加える。

二、よつて、原判決はいずれも相当であつて、本件控訴はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、民事訴訟法第三八四条第一項、第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡田辰雄 裁判官 小林定人 裁判官野田愛子は転補につき署名押印することができない。裁判長裁判官 岡田辰雄)

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